高次脳機能とは、大脳のいくつかの領域が共同で行う複雑な精神活動の総称です。
「高次脳機能障害」とは、交通事故などの頭部外傷、脳血管障害や病気による脳の損傷の後遺症として、
脳機能のなかでも高次な機能である。言語障害・思考障害・記憶障害・注意障害・集中力障害・
遂行機能障害・社会的行動障害などの認知障害が生じ、これに起因して、日常生活・社会生活への適応が困難となる後遺障害です。
■交通事故により脳の損傷があること
CT、MRIなどの画像による脳の損傷が確認される必要があります。
CT、MRIなどの画像で確認できない場合は、脳血流検査により脳の血流低下が認められないと、交通事故での証明は困難となります。
■一定期間、意識不明の状態が維持すること
脳損傷の場合、意識不明となることがよくあります。この意識不明状態であったかどうかも
交通事故で高次脳機能障害を発症したと判断する重要な根拠ともいえます。
しかし、意識不明の状態がはっきりしない人、脳震盪を起こした程度の人でも、交通事故による高次脳機能障害を発症する人もいるようです。
■一定の異常な行動・症状が生じること
高次脳機能障害は、例えばその人の性格の変化したことなどをいいます。その為、被害者本人はその自覚がなく、親族や身内
の人もその発見が遅れることもよく見受けられます。
よって、日ごろの日常生活がおかしいと感じると、神経心理学検査を行う必要がございます。
最も代表的な神経心理検査は「ミニ・メンタル・ステート・エグザミネーション」(通称MMSE)検査です。
交通事故による脳損傷後、間もない時期では十分睡眠をとっているにもかかわらず、すぐに疲れたり、ボーとしている
状態になっている場合、急性期を過ぎても改善せず持続するケースが多くみられ、ついには何にもしなくとも疲れてしまいます。
このような状態を「簡易疲労性」や「覚醒の低下」といいます。
覚醒は関わる部分は脳の根元である脳幹であるといわれており、あらゆる機能に影響を及ぼします。
例えば、覚醒の低下した高次脳機能障害患者に長時間座っていると、頭が震えだし、ついには怒り出すことが、覚醒の低下の一例だといえます。
簡易疲労性は、臭いや音など、無意識のうちに入ってくる情報にも影響を受けます。ですので騒音や人ごみなどの環境では、とても疲れるようです。
交通事故による高次脳機能障害(脳損傷)は約千億個あるといわれている神経細胞のうち、相当数の細胞が損傷しているのですから、
健常者と比べ疲れやすことは、ご理解できると思います。
この場合、単に辛抱できない身勝手な性格と思わず、近親者の理解が必要です。
また、高次脳機能障害者自身が自覚していない場合もございますので、近親者は注意深く、高次脳機能障害患者を見守っていく必要があります。
「注意」とは、特定の物に集中したり、持続したりする能力だけでなく、様々な刺激から必要な物を選別する能力も含みます。
注意障害の症状としては、注意が向けられない、注意散漫、些細なことで気が散りやすい、集中できない、ボケーとしている、
などが挙げられます。
注意力や集中力は、覚醒とも関わっていますので、脳幹と前頭葉の療法が関与していると考えられており、どちらかが
損傷しただけでも症状があらわれます。
注意障害を診断する神経心理学検査で、代表的な検査のひとつが「視覚深索課題(TMT)」という検査が効果的です。
検査の内容としては1から25までの数字を線で結ぶ課題で、最後まで結び終わる時間を判定します。
その他に「PASAT」という検査もございます。これは、数字を2秒間隔で聴かせて、隣り合った数字を60回続けて
足し算を行う検査です。
例えば「2、5、3、1、4・・・」と音声が流れてくると「7、8、4、5・・・」と答えていきます。
また「MMSE検査」も有用です。
「半側空間無視」とは、損傷した大脳の部位とは反対側の刺激に反応せず、そちらを向こうとしない症状のことです。
具体的症状としては、食事の左半分のおかずを食べ残したり、車イスの左のブレーキをかけずに立ち上がろうとして転倒したり、
左側にあるものに気が付かずにぶつかるなどがあります。要するに、どちらか片方の注意だけ散漫になってしまうことが
半側空間無視の症状としてあげられます。
検査方法としては「線分抹消試験」があり、この試験は紙の上に並んでいる無作為の短い線を、すべて鉛筆でチェックする
簡単な試験です。もし半側空間無視の場合、どちらか一方の線の見落としが多くなるといった結果になります。
「失語」とは、脳の損傷が原因で、他人の考えを理解したり、自分の考えを表現したりすることが困難な状態をさします。
失語になると日常会話が成立しないことがしばしばあります。
具体的症状は、人が何を言っているのか理解できない、何を指示しているのか分からない、質問に正しく答えられない、
本人は流暢にしゃべっているつもりだが、何を言っているのかは理解できない、本が読めない、手紙が書けないなど
失語機能が働かなくなってしまうのです。
人間の脳で言語機能に関わっているのは、側頭葉の後ろ側(ウェルニッケ野)と、前頭葉の後ろ側(ブローカー野)です。
しかしそれ以前に、覚醒や注意に問題があれば、いずれの言語機能も低下します。
失語症の検査方法としては「標準失語症検査(SLTA)という有名な検査法があります。
この検査法は聴く、読む、話す、書くという4つの言語機能について詳細に調べることができ、どの分野に問題があるのかを
抽出することができます。
「記憶障害」とは、脳損傷を発症する前の記憶は比較的よく保たれているというのに、
発症前後の記憶(数日~数ヶ月まで様々)だけぽっかり抜けてしまう症状です。最大の問題は発症後に新しく何かを覚えることができなくなることです。
全ての事を覚えられなくなるわけでなく、自分が経験して覚えた事(自転車の乗り方、問題を解決する道筋)は比較的覚えていますが、
暗記して覚えたこと(人の名前、言葉の意味)は記憶することが困難になるようです。
検査方法は「三宅式記銘力検査」があり、これは検査を行う人が対になった関係のある言葉、例えば「たばこ-マッチ」「星-空」と
いった言葉を十組言います。その後検査を受けている人に、対になっている片方の言葉、例えば「たばこ」と言って、検査を受けている
人にもうひとつの言葉、「マッチ」を言い当ててもらうものです。関係のある言葉で同じ作業を3回した後に、
「つぼみ-とら」のような関係のない言葉でも3回検査します。この計6回の成績で検査します。しかし、関係のない言葉になると
健常者でもかなり成績が落ちるのが普通で、後者の成績が低いからといって記憶障害とは一概に言えません。
「失行」とは指示された内容を理解しているにも関わらず、その動作ができない症状をいいます。明らかに運動麻痺や感覚障害
がないことが条件になります。
具体的には、はさみを使えない、お茶を入れられない、めがねをうまくかけられないなどがあります。
検査には「標準高次動作性検査(SPTA)があります。この検査はまず歯を磨く、髪をとかす、鋸で木を切る、金槌で釘を打つ
などの動作を指示します。最初は道具なしの動作、その後、道具ありの動作といった順番で右手4課題、左手4課題行う検査です。
どちらかの手で、あるいは両手の手で、その動作がうまく行えない場合、失行の疑いがあります。
前頭葉を損傷後、脳内の科学的変化により、じっとしていられない、がまんできない、イライラする、感情のコントロールができない、
といった症状が出ることがあります。これを「脱抑制」と呼びます。
後先を考えずに行動してしまう、感情が顔に出やすい、つい大きな反応をしてしまう、ちょっとしたことに腹をたてるなど
社会生活において、誰しも経験があることbかりが症状であるため、正常か異常かの判断がとても困難です。
周りの反応が明らかにおかしい、事故後、以前より我慢ができなくなった、もしかしたら脱抑制かもしれないと思われた方は一度
病院で診てもらうことをおすすめします。
やる気がでない、エネルギーがわかない、物事を始められないといった状態を「意欲・発動性の低下」といいます。
前頭葉機能が低下すると起こる典型的な症状のひとつで、動作や会話を自分では始められない、考えやアイデアがうかばない、
話を広げられない、他人に興味がない、表情がかたい、といった症状が代表的なものです。脳全般がダメージを受けた
「くも膜下出血」後にもみられる症状です。
自発的に行動や会話ができないので、重い症状と思われがちですが、始められるきっかけを具体的に与えてあげれば、
スムーズに社会生活できるのもこの症状の特徴です。
「判断力」とは、2つの考えを天秤にかけたり、結果を予測したり、さまざまな可能性を同時に思い浮かべるなどして理論的に決断する
能力のことです。一見単純な能力にみえますが、高次脳機能がすべて要求される、とても高度な機能です。
具体的な症状としては、友達と楽しく過ごしているのに場の雰囲気がよめずに場違いな行動や発言をしてしまいヒンシュクをかったり、
病前では考えられないような契約書にサインしてお金をだましとられるなどがあります。
前頭葉の損傷によって、この能力が障害をうけると、選ぶことが困難になってしまいます。日常生活において判断力を要求される場合は
いくつもあるので、社会生活をスムーズにおこなえなくなってしまいます。
「遂行機能障害」とは、物事を理論的に考えられない、計画できない、あらにはそれを評価し分析することができない症状がみられます。
遂行機能障害は前頭葉の損傷により発生する障害です。
検査方法は「慶應版ウィスコンシンカードソーティングテスト(KWCST)」があります。
これはカードを使った簡単なテストで、ルール(同じ色や同じ形など)に従ったカードを選び続けるものですが、途中知らないうちに
ルールが変更されます。その変更に対応し試行錯誤せず、前と同じルールに従ったカードを選び続け間違い続ける場合、遂行機能障害の
可能性があると判断されます。
「病識の決如」とは、脳を損傷しているにも関わらず、自分は何も問題がないと思っていることをさします。それゆえ、
リハビリテーションを拒否したり、自動車の運転などハイレベルな仕事もしようとするなどが症状としてあげられます。
検査方法としては、当事者とその家族に同一のアンケートを行い、当事者と家族の間に大きなギャップが生じているか否かで
判断します。この場合、当事者が実際に能力が高くても家族から信頼を得られてなくてもギャップは生じますし、当事者は能力が
ないと思っているのに周囲はもっとできると評価している逆パターンもあります。
いずれにせよ病識の決如は当事者と周囲の両者ともにストレスを与え、ギャップを埋める作業には長い月日を要することが多々見られます。
後遺障害の結果が非該当の場合や、納得の行かない場合は異議申立てをすることが出来ます。回数には制限が無く基本的に何度でも可能です。
等級認定通知書には認定理由の記載がありますので、その理由を覆す診断書や資料を添付して自分の望む等級が正当であることの証明をする
必要があります。
やみくもに異議申立てをしても認められるものではありません。
後遺障害の認定は原則、受傷後6ヶ月経過後となりますが、後遺障害の認定の判断には通院回数や主治医のカルテへの記載内容などが重要な要件になります。
そのため、交通事故当初から適切な処置・CT・MRIや日常生活状況検査・知能検査などの適切な検査をしておかないと取り返しのつかない事態になる場合も良くあります。
高次脳機能障害は被害者は自覚症状がない(自分は正常と思っている)場合が多く、被害者の親族も脳に後遺障害のあることを重く受け止め、
ついつい健常者に近い評価をしたり、将来は良くなるはずとの希望を含めて健常者よりの回答を医師にしてしまいます。
その結果、満足のいかない後遺障害の等級となってしまうのです。ですので交通事故当初から相談をされていれば必ず後遺障害の認定が
可能であった事故でも不本意な結果に終わってしまう事も少なくありません。
例えば交通事故後6ヶ月で後遺障害作成の事例では、交通事故当初に必要な画像所見が無く、6ヶ月経過後(当事務所受任後)に取得した
画像所見を添付して後遺障害(異議申立て)の申請を行っても、因果関係自体を否定される場合もございます。
また、非該当な後遺障害の等級に不満がある場合、異議申立ては何度でも可能ですが、被害者の自覚症状を重視する高次脳機能障害では
医師が後遺障害診断書の変更などをとても嫌います。
当事務所は初回無料相談を行っておりますので、行き詰ってからではなく、できるだけ迅速に対処することをお勧めします。
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